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やがて戸の隙間からは黎明の光が射し込み、小鳥の鳴き声が部屋に響く。
桜司郎は薄らと目を開けた。身体は重く怠いが、 やがて戸の隙間からは黎明の光が射し込み、小鳥の鳴き声が部屋に響く。
桜司郎は薄らと目を開けた。身体は重く怠いが、ッ……たい……」
そこへ背後の戸が開く音がした。ちゃぷ、植髮 と水の揺れる音が響く。
「桜司郎さん……!」
「お、沖田……先生……ッ!?」
沖田は驚く桜司郎を他所に、手にしていた水桶を脇へ置いた。そして手を伸ばすと、その背を抱き抱えるようにして支える。触れた箇所から伝わる体温は未だに熱い。
「ど、どうして……ケホッ、沖田先生が此処に……」
別の意味で体温が上がっていくのを感じながら、桜司郎は何度も瞬きをした。これも夢なのかと、頭が混乱する。
頭上の沖田を見上げ、掠れた声で問いかければ、少し照れたような微笑みが返された。
「……実は、貴女が負傷したと聞いて、居てもたっても居られなくなってしまったのです」
まるで憑き物が取れたような美しい笑みに、桜司郎はぼんやりと見惚れる。
──沖田先生と、またこうして話せるなんて。夢でも何でもいい。ああ、もう何も考えられない……。
「何故起き上がろうと?」
「え……その、」
さすがに着替えたかったとは言い出せず、
「の、喉が乾いて……」
そう言えば、沖田は心得たと言わんばかりに頷く。
そして片腕で桜司郎の身体を支えながら、盆を枕元へ寄せた。土瓶に入れられた白湯を湯呑みへ注ぎ、それを口元へ宛てがう。
「桜司郎さん、白湯です。ゆっくりでも良いので飲めそうですか……?」
「……は、はい……。あの、自分で──」
「病人なのですから、遠慮なさらず。どうぞ……」
沖田は決して湯呑みを渡さなかった。それに動揺しながらも、流れてくるすっかり冷めた白湯を受け止める。人に飲ませてもらうなんて、初めてだと顔を更に赤くした。
「熱冷ましの薬も一緒に飲みましょう。苦いとは思いますが……」
そう言うと、沖田は南部が用意した薬包紙を手に取る。口を開けるように言われれば、桜司郎は素直に従った。サラサラとした粉末の後に、再度白湯が流し込まれる。
「……苦い……」
顔を顰める姿を見て、沖田はくすりと笑った。袂から小さな包みを取り出し、中から金平糖を摘む。それから顔を覗き込み、唇へそれを押し付けた。
「ほら、ご褒美です」
まるで子ども扱いだと思いながらも、口腔内へ広がる仄かな甘味と、沖田から受ける扱いの甘さに頬が緩む。
よく日向ぼっこをしているせいか、沖田からはいつも陽だまりのような匂いがした。それに包まれていると思うだけで、心臓が忙しなく脈打つ。
それに比べて、自身は巡察の後から風呂に入れていない。その上、高熱で沢山汗をかいたことを思い出した。
「お、沖田先生……。私、汗臭いですから、離れて下さい……」
そう訴えれば、沖田は首筋に顔を寄せる。息が直に当たり、桜司郎はびくりと肩を跳ねさせた。
天然気質の沖田である。恐らく何も考えずにやった行動だとは予想は付くが、何といっても彼は想い人なのだ。熱も相俟って桜司郎の思考回路は爆発寸前だった。