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さぞや驚かれたことであろう。なれど、それが全て事実じゃ。…大義の為とは申せ、
そなた方を謀り、惑わせ、多大な心配をかけたことは、全て奥を預かる私の責任じゃ。どうか、許してたもれ」
濃姫が頷くように頭を下げると、一同も畳に手をつかえて、静かに頭を垂れた。
「お慈殿。そなたには辛い役回りをさせてしもうたな。申し訳なく思うておりまする」
「そんな…。畏れ多いお言葉にございます」
姫の労りの言葉が胸に沁(し)み、お慈は額がすりつくほど深く頭を下げた。
「此度のことは、きっと皆にとっても良い教訓となったことであろう。人の甘言が如何(いか)に危険なもので、
それを受け入れた者には、どのような処罰が待っているのか。また忠誠心や義理、秩序が如何に大切なものかという事を」
一同は顔を上げ、怪訝な眼差しで上段の姫を見つめた。【拆解植髮騙局】FUE植髮真的可以不剃頭? -
「皆に申し渡す。──表には表の法と規律があるように、奥には奥の法と規律がありまする。
今後それらを乱す者そうとする者がおれば、身分を問わず、厳しく罰して参るつもり故 、左様心得られよ」
濃姫は強い語調で言い放った。
そして、居並ぶ側室たちの顔を改めて眺めた。
「不思議なことに、私は織田家の正室でありながら、この度の宴が開かれる以前から知っている殿のお側女の顔は、僅かに三人じゃ。
即ち此度ご欠席のお類殿、冬姫の母君であるお養殿、そしてお慈殿───。
何故にそのような事態になっておるか分かるか? そなたたちが、挨拶はおろか、文の一通として私の元に寄越さぬからじゃ!」
「………」
坂氏やお澄、お葉たちは思わず俯き、気まずそうな表情をする。
「武家においても公家においても、側女は、奥御殿の長(ちょう)たる正室を称(たた)え、敬い、共に奥向きの安寧を守る為に尽力するのが習い。
にも関わらず、殿の妻である私や、御母堂たる義母上様のことを顧(かえり)みず、平然と殿のお側に侍り続けているとは何事じゃ!」
まさに言語道断の所業であると、濃姫は一喝した。
「…さ、されど、それは殿のお許しがあっての事にて…」
坂氏がおずおずと、だが反論気味に述べると
「殿のお許しとは、どのようなことです?」
濃姫は間髪を入れずに訊き返した。
「…お方様への気兼ね、挨拶参りなどは全て不用であると」
「ならば坂殿は、殿のお許しがあれば、私の存在など無視しても構わぬと、そう申すのじゃな?」
「決してそういう訳ではございませぬが…」
「お養殿などは、私に出産報告を致したいからと、自ら殿に申し出て、清洲城まで参って下されたのですよ?」
姫がお養を一瞥しながら言うと
「無論 私とて、それが道理であることは重々心得ておりまする。なれど、身分の低き私がご挨拶などに参れば、
お方様のお目の汚れになるのではないかと思い、あえて控えていた次第にございます。……それに…」
「それに?」
「少なくとも私は、御主君たる殿のお言葉が第一であると、左様に心得ております故」
坂氏の言葉に濃姫は軽く目を見張った。
「この奥殿にあっても、あくまで私の言葉よりも、殿の言葉を重んじると言うのですね?」
「殿あってこその、今の私と、勘八君でございます故」
「……」
濃姫は暫しの間、言葉なく、ただじっと坂氏の面差しを凝視していた。
坂氏も強い瞳で、負けじと姫を見つめ返している。
これはひと争いあるやもと、誰もが緊迫の面持ちで、濃姫と坂氏へ交互に視線をやっていた。